【重要】「と申します」の使い方の誤解~

謙譲語Ⅰ.Ⅱ 日本語勉強
謙譲語「~と申します」の誤用

自己紹介で「私は○○○と申します」と自分を紹介したことがある人は多いと思います。初級のころは「私は○○○です」と習って、その次に「私は○○○といいます」と習います。ある程度の学習が進むと「私は○○○と申します」を学習します。特別、難しいことはなく「です」「といいます」を「と申します」にしただけのことです。

自分を紹介するのに「です」「といいます」がいけないわけではありません。ただ、「と申します」の方が丁寧さがUPします。日本語の学習が進んで慣れてきたら、初めて挨拶する人に「~と申します」と自分の名前を紹介するといいでしょう。

先日、中級の新しいクラスが始まりました。それで自己紹介をしました。その後で「他己紹介」もしました。自分を紹介するのは「自己紹介」ですが、隣に座っている人を紹介するということをしました。

そのときに、「こちらは、○○○さんと申します」と、隣の人を紹介した人がいました。このクラスは14名のクラスだったんですが、同じことを言った人が2~3人いました。

みなさんは、この紹介をどう思いますか? 何か違和感を感じますか? 私は違和感をすぐに感じました。今まで一度も聞いたことのない日本語だったからです。ただ、日本語学習者の方が、このような表現をすることは十分に考えられることです。

無条件に「名前+です」「名前+といいます」=「名前+と申します」という理解をしていたのかもしれませんし、聞き手を意識して「です」よりも丁寧な「と申します」を使ったのかもしれません

どちらの理由にせよ、この場合の「こちらは、○○○さんと申します」は、正しい表現にはなりません。本当に難しいですよね。あらためて、学生に誤解が生じないように、丁寧に指導しないといけないと思いました。

それで、今日は「と申します」の意味と、その使い方(謙譲語1/謙譲語2)、「こちらは、○○○さんと申します」と使えない理由など、謙譲語のもろもろについて、ご紹介しようと思います。

謙譲語は、謙譲語1と、謙譲語2があるので、日本人にとっても難しい敬語です。この機会に一緒に理解を深めて、しごとの日本語をSkillupさせましょう~。

「と申します」の意味

「名前+と申します」は、自分の名前を相手に伝えるときに使います。「名前+です」「名前+といいます」と同じ意味です。初めて会ったときや、初めて電話やメールなどで、やり取りをするときに使います。一度「○○○と申します」と挨拶したら、次回からは「○○○です/でございます」と名前を名乗ればいいです。

「名前+です」「名前+といいます」は丁寧な表現ですが、「○○○と申します」は、さらに丁寧さが増します。丁重ないい方になるので、丁重語ともいいますが、敬語の謙譲語Ⅱに分類されています。

「○○○と申します」の主語は基本的に自分ですが、場合によっては「父」や「母」、「弟」などの身内の場合もあります。例)「父は、○○○と申します」身内を1人称(私)と考えるのでからです。

謙譲語は、謙譲語1と謙譲語2があります。「と申します」は、謙譲語2になります。

謙譲語Ⅱとは…

自分側の行為・ものごとなどを,話や文章の相手に対して丁重に述べるもの。

文化庁「敬語の方針」

謙譲語Ⅱは、自分側の行為を低めて、聞き手(読み手)に丁重に言うときに使います。高める相手が存在するわけではありません。

「私は○○○と申します」は、自分が自分の名前を言うだけの行為で、高める相手に向けた行為ではありません。丁重に聞き手に自分の名前を言う行為なので、謙譲語Ⅱになります。

「こちらは、○○○さんと申します」と使えない理由

では、今回のテーマである「こちらは、○○○さんと申します」がどうして、謙譲語として正しくないかを一緒に考えてみましょう。

まず、「~と申します」を使った理由を考えてみましょう。みなさんは、どうしてだと思いますか??

私は



謙譲語は、「自分側の行為・物事などを,話や文章の相手に対して丁重に述べるもの」です。自分側というのは、自分、個人では身内、社会的には同じ会社の人になります

ですから、「こちらは、○○○さんと申します」は、○○〇さん聞き手の相手に丁重に紹介したことになります。聞き手には、丁重に紹介したことになりますが、○○○さんには失礼な表現になってしまいます。

○○○さんが親しい友達、後輩だとしても、「自分側」の人として、謙譲語の「~と申します」を使うことはできません。「自分側」の範囲にあてはまりません。「こちらは、○○○さんと申します」と隣の人を紹介した場合、隣の人を「立てなくても失礼に当たらない人物や第三者、事物」と認識していることになります。

また、「さん」は「様」と同じく尊敬語です。一つの文で「尊敬語の敬称」と「謙譲語」を使うとことはありません。

○○○さんにあたる人が、身内だとしたら「こちらは、私の息子で○○○と申します」と言います。身内を紹介する分には問題ありません。

もし、○○○さんにあたる人が同じ会社の人で、他の会社の人に紹介をするのなら、「ご紹介いたします。私どもの部長の○○○でございます」「「こちらは、開発部の○○○でございます」「新入社員の○○○です」のようないい方をします。ビジネスで自分側にあたる人を紹介するときは「~と申します」は使わなくていいです。「でございます/です」の丁寧形で問題ありません。

場面を想定して考えてみましょう。
例1)
人物:ABC社の部下・ABC社田中部長/山中商事の山中社長
場面:ABC社の部下が、山中商事の山中社長に上司の田中部長を紹介する。そして、自分の会社の田中部長に山中社長を紹介する。
ABC社の部下:山田社長、ご紹介いたします。私どもの部長の田中でございます。
ABC社田中部長:いつも大変お世話になっております。ABC社の部長をしております田中進と申します。※「~長」も「さん」「様」と同じく尊敬語になります。自分、自分側の人の名前には使いません。

例2)
人物:同じ大学に通う3年生・1年生鈴木/大学の教授
場面:3年生が教授に1年生鈴木君を紹介する。鈴木君も挨拶をする。
3年生:先生、先月入学した経済学部1年生の鈴木君です。
鈴木君:はじめまして、鈴木健太と申します。

その他の仕事でよく使う謙譲語Ⅱ

謙譲語Ⅱには「申します」以外に、「参ります」「おります」「存じます」「いたします」など、仕事でよく使う動詞があります。全て自分側の行為を丁重に言う表現です。
・私は明日、自宅におります。
・私は明日から海外に参ります。
・私の息子は明日から海外に参ります。
・ご教示いただきたく存じます。
・失礼かとは存じますが…..

謙譲語Ⅱの接頭語もよく見かけます。「小社」「拙著」の接頭語は自分に関することを控えめに表現する言葉ですが、書き言葉として使われます。

動詞言う申す
行く参る
来る参る
いるおる
思う存じる
知る存じる
するいたす
接頭語拙稿・拙作・拙策・拙宅・拙著・拙文・拙論
弊行・弊誌・弊社
小社・小誌・小紙
落手・落掌
粗餐・粗品・粗茶
寸志・寸著
卑見
申す申し伝える
ビジネスで知っておきたい謙譲語Ⅱ

謙譲語Ⅱは、基本的には「自分側(主語)」の行為に使うので「(あなたは)どちらに、参りますか」や「(あなたは)明日の予定を存じていますか」のように、相手の行為に使うのは不適切です。相手の行為には尊敬を使います。
「(あなたは)どちらに、参りますか」✖
「どちらに、いらっしゃいますか」〇
「(あなたは)明日の予定を存じていますか」✖
「(あなたは)明日の予定をご存じですか」〇

「自分側の行為以外」に使う謙譲語Ⅱ「電車が参ります」

謙譲語Ⅱは、基本的に身内や同じ会社の人を含む自分が主語になります。
例)「明日、私は自宅におります」は、謙譲語Ⅱの典型的な使い方です。

しかし、下記のような使い方もあります。
5番ホームに電車が参ります
夜が明けて参りました
・向うから子供たちが大勢参りました
・よくぞした。さすが喜太郎じゃ
・この百姓め、なにすか!!

相手を立てなくても失礼に当たらない人物や第三者、事物について、謙譲語Ⅱを使うことができます。一番よく耳にするのが、駅のホームではないでしょうか。「電車が参ります。黄色い線の内側までお下がりください~。」

謙譲語Ⅰとは…

謙譲語は、謙譲語1と謙譲語2があって、紛らわしく感じます。しかし、整理して理解していけば問題ありません。日本人は学校で尊敬語・謙譲語を習いますが、大人になるとすっかり忘れてしまいます。それで、日本人も間違った使い方をすることが多いです。ただ、生活の中でたくさん聞いたので、感覚で使っています。

日本には「習うより慣れろ」という諺がありますが、いろいろな所で、たくさん日本語に触れて、実践する中で敬語に慣れると思います。基本的な知識を頭に入れて、後は迷わず実践してくださいネ~~。

では、謙譲語Ⅰをご案内します。

自分側から相手側又は第三者に向かう行為・ものごとなどについて,その向かう先の人物を
立てて述べるもの。

文化庁「敬語の方針」

「私がお客様に商品を送る」の場合、私の「荷物を送る」という行為は、お客様に向う私の行為です。そして、お客様はこの行為を受けますこの行為を謙譲語で表現すると、「荷物をお送りします」になります。この「お送りします」が相手を立てる表現になります。必ず高めるべき相手が存在するのが謙譲語Ⅰです!

行為をする自分側は、基本的には私なので、謙譲語の主語は私になります。
私が先生をご案内します(いたします)
私が先生を駅までお送りします(いたします)
私が)(お客様の)お荷物をお持ちします(いたします)

ただ、下記のような場合は、私以外の人が主語になる場合があります。
① 身内も自分側とすることができます。
つまり、私=身内として、謙譲語の主語にすることができます。
私が先生をご案内します(いたします)
姉が先生をご案内します(いたします)
私の代わりに母が伺います(お伺いいたします)

ビジネスの場では、同じ会社の人は「内の人」、他の会社の人は「外の人」になります。それで、
私=内の人という認識になります。つまり、同僚や上司が謙譲語の主語になることがあります。
私から、(○○社長に)ご説明します(いたします)
部長の○○○から(○○社長に)ご説明します(いたします)
※○○社長は取引先の社長(外の人)
明日、担当の者が(お客様を)ご案内します(いたします)

③ 「田中さんは、林先生の研究室に伺ったことがありますか」は、伺う主語が田中さんです。私ではありません。田中さんは、私の家族でも、同じ会社の同僚でもありませんが、田中さんに謙譲語意を使うことができます。これは、「林先生が明らかに目上の立場」であり、田中さんと私が同格の立場である場合可能です。

また、目上の立場の人が、目下や後輩に下記のような表現ができます。
君が社長をご案内するように…
社員一同でお客様をお迎えしてください


謙譲語Ⅰは、なんらかの自分側の行為があって、この行為の向かう相手を高めます。必ず高める相手が存在するのが謙譲語Ⅰです!

基本的に主語は私です。先にご案内した①~③に場合は、私以外の人が行為の主体になります。

仕事でよく使う謙譲語Ⅰ

動詞会うお目にかかる
あげる差し上げる
言う申し上げる
行く伺う・お伺いする
来る伺う・お伺いする
聞く伺う・お伺いする
訪ねる伺う・お伺いする
尋ねる伺う・お伺いする
(引き)受ける承る
借りる拝借する
知らせお耳に入れる
知る存じ上げる
するいたす
食べる・飲むいただく
見る拝見する
見せるご覧に入れる・お目にかける
もらういただく・頂戴する・賜る・仰ぐ・(~に)あずかる
読む拝読する
接頭語お断り・お見舞い・(立てるべく人へ送る)お手紙・お電話
ご挨拶・ご案内・(建てるべき人へする)ご説明
おん御礼
拝顔・拝眉・拝見・拝察・拝借・拝受・拝承・拝聴・拝読・拝誦
謹賀新年・謹啓・謹聴・謹呈
献上・進上・呈上
申す申し上げる・申し受ける
ビジネスで知っておきたい謙譲語Ⅰ

まとめ

今日は「と申します」の意味と、その使い方(謙譲語1/謙譲語2)、「こちらは、○○○さんと申します」と使えない理由など、謙譲語のもろもろについて、ご紹介しました。できる限り分かりやすく…、と思っていますが簡単ではありません。( ´∀` )

N3のレベルになると尊敬語・謙譲語を習います。そして、N2,N1へと学習は進み、皆さんの日本語能力はドンドンUPしますが、なかなか習得できないのが尊敬語と謙譲語ではないでしょうか。

昨日、30年間小学校の先生をしていた方とお茶をしました。その時に敬語の話しになって、謙譲語Ⅰ.Ⅱの話しをしたら、「え!謙譲語にⅠとかⅡとかあるの?」と言って笑っていました。もちろん、その先生はちゃんとした敬語を使ています。体で覚えているんだと思います。その先生は「いつも子供と話してるから、敬語に自信がない」と言っていました。

ひと言で敬語と言いますが、その場、その場の雰囲気、相手、相手との距離感、自分の立場といった様々なことで、敬意の表し方が微妙に変わります。

とにかく実践して、うまく表現できなかったことがあったら、自分で調べて敬語力をUPさせていってください。もちろん敬語は、形さえ正しければいいというものではありません。暖かな気持ちのこもった日本語会話が本来の敬語だと私は思っています。

失礼がないように…仕事で失礼があってはいけない、と思う気持ちは通じています。見ていて本当に美しい姿です。いつも感動しています。

謙譲語の作り方の参考資料
:日本語の「お」「ご」総まとめ~② 謙譲語の意味の「お/ご」🔶動詞の謙譲語

参考資料:文化庁「敬語の方針」

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